私は神の子②  ーアイデンティティの確立Ⅰー

オリジナル小説

世界で一番嫌いな人は、母。ああいう女にだけはなりたくない。物心ついてからずっとそう思ってきた。
すごく気が強くて、家の絶対的な支配者。温厚な父は決して母に逆らわず、好きにさせていた。(だから家庭がもったのだろう)
周りの人も物も、思い通りに動かさないと気が済まない。そんなこと、人それぞれでいいでしょうという細かいことまで、ああしなさい、こうしなさいと、次から次へ命令を繰り出して。母の逆鱗に触れないことが家族の至上命題だったけれど、困るのは地雷の在処が予測できないこと。気の利かない私はしょっちゅう踏んづけて、そのたびに手や足が吹っ飛んだ。そのくせ母は、人から少しでも非難されると異様に落ち込んだ。そして反発されると怒り狂った。
とにかく早く家を出たい。22で結婚した。もちろん、父に似た優しくおとなしい相手を選んで。これでようやく自由になれる。解放感に浸ったのも束の間、母は病を患い、あっけなく他界してしまった。
そして、3人の子供たちが思春期に入る頃。再び「母」は現れた。
「どうしよう!?加藤さんと役員、一緒になっちゃった!」「うわ、最悪」「仕切られまくるよ」「そうそう。絶対、自分が正しいもん」「思い込み強いしさ。自分の見たとこだけで責めるから」「好き嫌い、露骨に出すしねー」「そういう態度失礼ですよ、ってハッキリ言っちゃえば?」「冗談!大騒ぎになるよ」「人にはキツイけど、自分はすっごい傷つきやすいもんね」「だから誰も何も言えないじゃん」
中学の懇談会で耳に挟んだ自分の噂。陰ではきっともっと酷く言われている。血の気が引いた。悪口を言われたショック以上に、母の姿そのまんまだったから。そして、自分に自覚がなかったから。
言われてみれば、思い当たる節もある。子供が反抗して言うことをきかないと、我が子なのに本気で憎らしくなった。カッとなって手が出たこともある。夫はいつも何も言わない。だから仕方なく私が全部決めてきたと思っていた。本当は、言えなかったのか。
何とかしなければ。母のようになりたくない。子育て講座に参加し、指南書を読みあさった。しかし、子供の反抗は加速していった。《続く》

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