私は神の子① ー私は神に望まれて誕生したⅠー

オリジナル小説

私は16才。青春真っ盛り、花の女子高生。それなのに心は憂鬱に取り憑かれている。もう10年も。
忘れもしない小学校1年の春。授業参観から戻った母は、スーツの襟元からスカーフをむしり取ると床に投げつけて叫んだ。「あんたができちゃったせいで、あたしは好きなこともできないじゃないの!ろくに遊ばないうちに結婚して子育てして、冗談じゃないわ。育成会?PTA?なにそれ。あたし、まだ26よ!あんたなんて生むんじゃなかった!」そして食卓につっぷしてわっと泣き出した。冗談じゃないのはこっちの方。結婚もしてないくせに妊娠したのはあんたでしょうよ。それを幼い我が子になんて言い草。ふざけないで!…と今なら思えるけど、あの頃は母がイライラして怒鳴る度に自分が悪いんだと本気で思ってた。子供ってそういうもの。お母さんを不幸にしてるのは私。私はここに居ちゃいけないんだ。実の親にさえ望まれなかった私に何の価値があるっていうの。完全な失敗作。ゴミと一緒。
ならば自分で自分の価値を作り出そう!と頑張ってみたけれど、あいにく私はバカだった。とろかった。特技もなければ人付き合いも下手。劣等感を抜けるとそこは雪国…じゃなくて無気力だった。寒いのは一緒だけど。ああ、すっかり凍えてこのまま凍死。エベレストじゃなくっても疲労凍死ってあるのね。もう一歩も動けない。指一本動かせない。閉ざされた心の真っ暗闇の中で私は死ぬんだ…。
鼻がマフラーに埋まるくらいうつむいて公園のベンチに座ってたら、突然目の前にチラシが差し出された。顔をあげると丸顔のおじさん。「神はあなたを愛しています」真顔。なに?悪徳商法?人さらい?怪しげだけど『愛している』の言葉は麻薬。つい受け取ってしまう。そこにはこう書いてあった。「わたしの目にはあなたは高価で尊い。わたしはあなたを愛している(聖書)」おじさんによると、私がこの世に生まれて来たのは神の計画だとか。大昔から私が生まれることは決まっていて、私だけができる役割も決められていて、必要だから誕生したと。ブスでもバカでもデブでもとろくても全然関係ない。そのままで高価で尊いって。疑いと希望とで心がぴくっと反応した。(Ⅱに続く)

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